その男、濃紺ダブルスーツにつき!(その2)

不動産の仲介手数料は、宅建取引業法(?)で決められている。
売買価格が400万円を超える場合(がほとんどだと思われるが)、以下の計算式となる。

仲介手数料=売買価格×3%+6万円+消費税

400万円とすると、約20万円となる。売る方の立場からすると、実質380万円が手残りといいうことになる。個人で不動産業として活動するには、なかなかいい儲けだ。

だが大手にしてみれば、リゾートマンションはクズ物件もいいところで、個人売買のエリアごとの取引実態を見てみると、ほとんど東京一極集中といっていい。なんかコロナの罹患者数と似ていなくもない。東京23区、神奈川都市部が多くて、埼玉、千葉は電車距離ほどには取引量が多くない印象である。

というわけで、わが物件については、大手も含めてまったく反応がない以上、あの男に相談するしかない。実をいうと、相談した大手の不動産業者は、この男に相談してみればとのたまった始末なのである。それで踏ん切りがついた。

ダブルスーツの男に数年ぶりにアポイントを入れる。男は、「いつでもいいですよ。今度いついらっしゃいます?その方面はほぼ毎日いっていますので、立ち寄りますよ」。相変わらずのフットワークの軽いノリで、話が早い。

男は、ダブルのスーツではなく、半袖のストライプのシャツを着ていた。ストライプにこだわりがあるのだろう。汗をふきふきわが家にやってきた。冷たい緑茶を差し出すと、一気に飲み干した。来た途端に電話がかかってきて、こちらにおかまいなく話し出す。

コロナのこんな時期に、リゾート地の取引の話がそんなにあるものなのだろうかと感心してながめていた。腹も立たないのは、男の奥面のなさに怒るより、呆れるのが先行するからだろう。契約まで数年前に数度会っただけだが、スマホにSONYの小型ICレコーダーをアクセサリーのようにぶら下げて、ほかにも鍵とかをくっつけている。

極めてアナログにITを使いこなしているという意味でも、男は独特のビジネススキルをもっている。ちなみに宅建の免許はもっているので、書類作成も自分でやっている。たぶん物件案内のホームページも自社サイトでは自分でやっているのだろう。

「そうですか。そういうことなら承知しました。早速ですが部屋の写真を撮りましょう」ひとしきり話が終わると男はやおらカメラを取り出した。営業マンがカメラ持参というのは前にも経験があるが、広告媒体での見た目は重要だと思うが、男はおかまいなしである。

家具やキッチン用品、皿などが画面に出てしまうので、こちらが気を遣って「片付けましょうか?」と聞くと、「写らないように撮影するのでだいじょうぶ」と言って、コンパクトカメラで、ひと通り撮影しだした。過去に何度も何部屋もこうしてやってきたのだろう。撮影は10分もかからず終わった。

都心のマンションを売ったときには、スーツをバシッと着こなした大手の営業マンが2人連れでやってきて、パワーポイントの提案書を使って丁寧に一種のミニプレゼンをしてくれたケースもあった。この男に説明資料などはない。

買ったときもそうだが、とにかく連れてきて物件を見せる。極めていい加減だが取引が決まってしまうこの男の力量は、お客との会話の中で親密な関係を一瞬にして築き、その望みを具体的に解決していく。あとで調べて回答しますということが一切なく、回答が即座に提示できるところにこの男の強みがある。

当たり前といえば当たり前だが、エリアと物件を誰よりも知り尽くしていることと、ある程度の回転があれば限定された物件に集中することで効率を高めているのだ。いわばホットスポットを設けてそれを集中的に取り扱うという選択と集中のビジネススタイルである。

ダブルのスーツは威圧的だが、田舎なので顔を利かすにはそういうていが有効なのだろうと錯覚してしまう。不動産営業マンは見た目が9割。都心の不動産営業マンはビシッと決めたビジネスエリート然とした若者が多い印象で、それはシビアなオープン競争の尖兵としての最低限の前提である。両手(売り手と買い手両方から手数料収入をせしめること)はなかなか難しく、物件数と物件価格は高いので、ビジネスは大きい。


一方、男は家業然とした独特の効率があり、小さい儲けでも両手は必須である。なぜなら、男にしか買い手を見つけてくることができないからである。他の不動産会社でもだいじょうぶだろうと考えていたが、リゾートマンション売買は一般募集ですぐに客づきがあるほどは甘くない。手放すまで高額な管理費と修繕積立金を払い続けてまでリゾートマンションを買いたいという客を見つけてくるのは、不動産投資家は手を出さないという経済合理性を考えると、極めて難しいのである。

やはり驚いたのは、男は2週間ぐらいで買い手を見つけてきたのである。男には客のストックがあるのだろうか?そこが最大の謎である。SUUMOやAT HOMEなどのサイトで男の対象物件を見ていると、他の仲介会社で募集していても、いつの間にか男の会社が扱うことになっている。

男は専任媒介(その不動産業者だけに依頼を限定して売買契約をすること)を求めない。それでも売る方の依頼が男に集中するのは実体験としてわかるが、買う方が男に集中するのは、まさに不動産営業マンとしての男のマジックとしてか思えない。こういう不動産業者のやり方もあるのかと、感心してしまう。老衰不動産のマーケット救世主としての男の仕事は、プロだな〜と感心する。


まあ、その勉強のためにこの数年で、この濃紺ダブルスーツ男に数十万円を献上することになったという話である。

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