その男、濃紺ダブルスーツにつき!(その1)

伊豆のとあるエリアに温泉つきのよくある昭和リゾートマンションの一室を、過去に衝動買して毎月管理料を払っていた。
いまでこそコロナで閑散としているが、当時は世界遺産の富士山を旅の目的に、海鮮づくしの宴会料理を貪る温泉宿泊がセットになったインバウンドが大いに盛り上がり、街は中国人で溢れかえっていたのである。
この数年、日本がいかに中国人の経済力に依存していたかが、中国人観光客のホットスポットをながめるとよくわかる。
タモリ倶楽部でも西川口の本格中華料理店を特集したことがあるが、観光地や温泉地でも中国人に圧倒されそうになっていた。

問題はサラリーマンとしての長期休暇にどこもいけなくなることなんともいえない焦りがあった。だいたい正月はもちろん、ゴールデンウイークなどの宿泊料金は1.5倍から2倍ぐらいになることはざらにあった。
そんな時期に仕事の忙しさの合間を縫って宿の獲得に戦々恐々とするのにつかれていた。
それ自体が老いの典型的な兆候かもしれないが、心底面倒になっていた。
で、ついつい伊豆なら将来もしかすると住んでもよかろうと思い、衝動買いをしてしまったのである。
すでに苗場では1部屋ファミリータイプで10万円、それどころか逆に数十万円あげるから引き取ってという案件が出ているという新聞記事もあって、リゾートマンションの危険性は指摘されていた。

実際に数年使ってみて、快適だった。何より宿の心配をすることもなく、伊豆の海鮮を安く楽しむ馴染みの店もでき、ゴルフ場も千葉などに比べると格段に安い。新幹線を使えば都心から1時間もかからない。
ただ問題は管理費だった。管理費と修繕積立金がばかにならない。温泉の維持などがコストにのっかってくるので、都心のマンションの管理費なみの金額なることがままあるのである。苗場などもそうであろう。
これは功罪相半ばするところである。
温泉がいつでも入れるという魅力は大きい。しかし一戸建てなら、固定資産税程度ですむので、それを買えばよかったかなといまになって思う。それにリゾートマンションには、建物税みたいな都心ではわからない税金の請求がきた。
伊豆にきてみてわかったのは、町が運営する格安の温泉があちこちにいくらでもあり、それが非常に快適ですばらしいことである。
その気になれば最大でも2000円も払えば、高級旅館でも日帰りの湯に入ることはできる。クルマがないと成り立たないが、温泉を積極的に楽しむのにはそっちのほうが楽しい。

結局、住んでみないとわからないのだが、さすが昭和のリゾートだけあって、レトロだがなんとも艷やかな趣があり、ちょうどおばあちゃんのような味わいがある。この文化的背景が廃れてしまうのはしのびない、と切に思う。中国人に乗っ取られていたのはやはり忸怩たるものがあったが、コロナで一掃されたあとは、その本質的な快適さが浮かび上がってくるのである。
しかし、海外移住をきめているので、泣く泣く手放すことにした。修繕管理費を何年も持ち出しにするわけにはいかない。東南アジアなら、その維持管理のコストでコンドミニアムが借りられる。

楽待あたりにオープンに取り扱い打診をするが、取り扱いしてくれる不動産業者はいないという。地元の不動産業者にも電話をしてみるが、断られる。マンション管理会社の親会社が不動産会社なのと、ポストに買い取りしますよとうたうパンフレットが投げ込まれていたので打診してみると、「たしかにパンフは投げ込んだのですが…………。うちではご満足のいただける価格には絶対にならないと思います。キャンペーンで全国的に投げ込んでいるので、申しわけありませんでした」と、価格交渉をする前から断られる始末。
苗場のリゾマンで大きくなったリゾート専門不動産会社にも打診したが、興味のなさそうな様子に逆に驚いた。
ある大手の建設会社系の地元不動産会社だけが自社サイトで募集してくれたが、半年以上たっても1件も打診がないというお寒い状況だったのである。
つまり不動産投資としてはほとんど無価値ということだ。賃貸が成立していないのでうすうすはわかっていたが、これはババを引いたな〜と思っていた。

買ったところに相談するのはなんとなく気が引けていた。数年で売ってしまうのがバツが悪い気がした。でも海外移住が控えているので背に腹は代えられない。ほとんど個人でやっているような不動産会社の社長の携帯に電話をかけた。浅黒く、ガタイが大きくて、ちょっとY風(笑)の昭和の社長である。購入が冬だったので、くっきりと縦にストライプの入った濃紺ダブルスーツのその姿を思い出しながら…………。

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